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「東京フィルメックス2002」
イ・チャンドン監督記者会見
(2002.12.4有楽町朝日ホールにて)

監督:
 皆さん、こんにちは。イ・チャンドンです。
この作品は観るのには居心地が悪い作品かも知れませんが、最後まで観ていただいてありがとうございます。

Q: 映画を観てわからない点が2点ありましたので質問します。まず、強姦罪で逮捕されますが、彼はなぜ弁明をしなかったのか?コンジュが壁掛けに映る影が怖いと言いますが、それは絵そのものの影なのか、窓から入ってくる影なのか?最後に木を切る場面がありますが、2階とその木のバランスがおかしいと・・・(笑)。
監督:
 私がこの『オアシス』という映画で語りたいと思ったのは、“意思の疎通”をテーマにしたいと思いました。私たちは生きていく中で、自分と違う他者とどれだけ意思の疎通がはかれるのか?コミュニケーションができるのか?ということを観客の皆さんと考えたいと思ったのです。
 人と人が意思の疎通をはかる時に、1番密接した形、そして1番美しい心の交流とは“愛”ではないかと思います。この映画に出てくる愛し合う2人と、2人を取り巻く人たちの間には意思の疎通はありませんでした。
 強姦罪という罪で警察に捕まってしまった彼は、もしかしたら映画のシーンに出ていないところで弁解していたのかもしれません。たとえ彼が弁解したとしてもきっとそれは他の人たちには受け入れられないものだったのではないかと思います。
 2つ目のご質問ですが、外にある木の影が窓を通して入ってきて絵の上にかぶさっていることになります。木の高さと2階の絵のバランスがというご指摘があったのですが、高い木の下に街灯が立っているので、直接ではなく街灯に照らされて窓を通して入ってくるという形になっています。

Q: 女優さんについての質問ですが、どのようにキャスティングしたのかというのと、現場でのご苦労とかあったと思うのですが、いかがでしたでしょうか?
『ペパーミントキャンディー』
監督:
 ムン・ソリという女優さんなのですが、実は私の前作である『ペパーミントキャンディー』で一緒に作品を作った経験があります。その時は公開オーディションがありまして彼女が選ばれたのですが、すでに前作で彼女の女優としての潜在能力というものを十分に分かっておりました。
 ただ、オアシスを撮るにあたりましてキャスティングをした際はムン・ソリさんでなくても、どんな女優さんがやってもこの役は難しいと思いました。もしかしたら、不可能な、あり得ない役なのかもしれないと思いまして、撮影に入る前までは果たして本当に最後までやり遂げられるのか私自身も本人も不安でしたし、心配をたくさん抱えていました。コンジュという女性は重度の脳性マヒという障害を持っているのですが、その身体を表現するというのは想像以上に難しいことだったと思います。肉体的にも大変ですし、それ以上にもっと大変だったのは精神的、心理的な面だったと思います。ムン・ソリさんも女優である前に1人の女性でありますから、自分の身体をああいう形で表現することは本当に恐怖心を覚えたのではないかと思いますが、彼女は想像を越えた努力を重ねて最後まで頑張って演じてくれました。監督としましてはムン・ソリのような女優さんと出会えたことを光栄に思っています。

Q: 監督は小説家でもありますが、監督と小説とどちらをやっていこうとお考えですか?
監督:
 私はもともと小説家出身でその後に映画界のほうに転身したのですが、今は映画のほうに専念していますので、小説のほうは書いていません。小説を書くというのは本当に大変なのですが、映画もいつ私が撮れなくなるかわからないので、もしかしたら映画界から追い出されてしまうかもしれないので(笑)、その時はまた小説を書くことになると思うのですがとりあえず今は映画のほうに専念したいと思います。

Q: たいへん素晴らしい作品をありがとうございました。障害者や前科者いうことで社会的に難しいものを敢えて撮ろうと決めた監督のきっかけとなったものと監督のこの映画にかける熱い思いを聞かせていただきたいと思います。
監督:
 確かにこの作品には障害者の人が出てきますが、私が最初に撮ろうと思ったのは障害者の人たちの物語ではありませんでした。
イ・チャンドン監督
あくまでも最初描こうと思ったのは、“人と人との心の疎通”“心と心の通いあい”なのです。
 日常生活の中で人に出会うと、私たちはその人の内面に出会うのではなくて、その人を包み込んでいる偏見とか固定観念なのです。その偏見とか、固定観念とかの最たるものが「脳性マヒの重度障害者」の方であり、男性で言えば社会的に「前科者」がそういう見方をされるのではないかと思います。
 そういう概念とか偏見を越えたところで、私たちはどのようにその人の本当の姿、本当に美しい人と出会えるのかを考えてみたくて映画を撮り始めました。私は観客の人にこれを単なる物語として頭で考えるのではなく、映画を観て体験してほしいと思いました。この映画は決して心地いい映画でもなく、受け入れがたい映画と思われるかも知れませんが、偏見とか固定観念とかをなくして理解していけば、やがてはその人が本来持っている美しさとか本当の姿を見つけられるのではないかと思いましたので、こういう撮りかたをしました。意図的にすごくわかりやすい撮りかたは排除して、観客がちょっと窮屈な思いになるように、そして時には目を覆いたくなるようなシーンも意図的に入れながら、この映画を頭で考えるのではなくて身体で体験して欲しいと思います。

Q: 製作はミョン・ゲナムさんですが、何かアドバイスをしてくれたとか、逆に葛藤したことはありますか?
監督:
 ミョン・ゲナムさんはプロデューサーなのですが、あまりアドバイスや口出しをしない方です。私とミョン・ゲナムさんの間にもし熱い葛藤があるとしたら、本来は監督である私が製作費を節約しなくてはいけないとか、興行的にどうなのかとか心配しなくてはいけないのに、ミョン・ゲナムさんはそういうことは一切心配しなくていいから、とにかくいい作品を撮ってほしいということで監督とプロデューサーという立場が逆転したという葛藤はあるかもしれません。

Q: 2人がオアシスの世界で踊るシーンに出てくる像はタイで撮影したと聞いたのですが?
監督:
 韓国では子どもの象がいないし、野生動物保護条約というのがありますので外国から連れてくる訳にも行かないのでこちらが行くことになりました。デビッチ・リンチ監督の『戦場に架ける橋』の撮影場所のすぐ隣だったんです。隣ではスペクタクルな撮影をしているのに、こちらはみすぼらしいアパートの撮影だとスタッフが嘆いていました。(笑)
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